Do you see the GIRL

元・アニメ制作進行の自分が、アニメを見ての感想だったり、映画を見ての考察だったり、エロゲをやって勃ったことだったりを書いていくブログです。

日常系好きにも楽しめる「異色終末SF」4選

第8回は、「異色終末SF」と題して、一風変わった終末SF作品について語っていきます。
そもそも終末SFとは何ぞやということで、Wikipedia「終末もの」の概要を引用します。

終末もの(しゅうまつもの)あるいは破滅もの(はめつもの)とは、フィクションのサブジャンルの一つで、大規模な戦争、大規模な自然災害、爆発的に流行する疫病などの巨大な災害、あるいは超越的な事象によって、文明や人類が死に絶える様を描くもの(Apocalyptic fiction)、あるいは文明が死に絶えた後の世界を描くもの(Post-apocalyptic fiction)である。

北斗の拳』や『ナウシカ』などの世界観を想像してもらえれば分かりやすいかと思います。
今回は、「終末」の世界観を取り入れつつひと味違った雰囲気を醸し出しているSF作品たちをご紹介します。

 

少女終末旅行(つくみず著 - BUNCH COMICS)

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タイトルの通り、二人の「少女」が「終末」世界を「旅行」する漫画です。
二人が旅を続け、その行く先々で見つけた施設やそこで出会った人々とのエピソードをかなりまったりとしたテンポで描いています。

第2話「戦争」で、主人公のチトとユーリは食料を探して旅を続けるうちに、武器の投棄場のようなところに辿り着きます。
そこで普段はボケーッとしているユーリ(画像右)がこう言います。

昔の人も食料不足だったんだよね
なんで武器ばっかり作ったの?

真面目に回答すれば、
「たまたま彼女らが辿り着いたのが武器の投棄場なだけで、昔の人も武器ばかり作っていたわけではない」
といったところでしょう。
しかし、何も知らないまっさらな目で見たらそう思うのか、とハッとさせられます。

このように、読み終わった後に少し自分の中で考えなおしてみたくなる内容だったり、かと思えば何も考えずのんびりふわふわできる日常的な内容だったり、「終末」という世界観を存分に堪能できる作品です。

冒頭に貼った画像の通りざっくりとした絵柄ですが、それが作風と絶妙にマッチしています。
見開きのキメのコマなどは息をのむような印象すら受けます。

「異色終末SF」としてご紹介しましたが、「日常もの」が好きな人でも「異色日常もの」として楽しめる作品だと思います。

Web連載で無料公開されているので是非ご一読あれ。

 

(※2017/7/5 追記)

アニメ化が決定しましたね。

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ティザービジュアルは作品の雰囲気が出ていて非常に良いです。

原作の作風が作風だけに映像化には期待も不安もありますが、今は座して待つのみです。

 

ヨコハマ買い出し紀行芦奈野ひとし著 - 月刊アフタヌーン

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1994年から2006年までの12年間に渡り連載されていた漫画です。
1998年と2002年の二度OVAが発売されました。
海面上昇により沿岸部が海に沈み、穏やかに終末へと向かっていく近未来の三浦半島(とその周辺)が舞台です。

原作1巻の表紙折り返しの作者コメントが非常に印象的です。

お祭りのようだった世の中がゆっくりとおちついてきたあのころ。
のちに夕凪の時代と呼ばれるてろてろの時間、御案内。夜の前に、あったかいコンクリートにすわって。

 OVA1期のEDでナレーション的に挿入されるので、OVA版を見た方には特に印象深いかと思います。

このコメントを読んで「おっ」と思える方であれば原作もOVA版も強くオススメします。
期待通り、あるいはそれ以上の「てろてろの時間」が迎えてくれることでしょう。

本作の主人公は「ロボットの人」の女性アルファさん。
特に4年で寿命を迎えることもなく、「滅び行く世界の中に残り続ける人」という本作中でSF的にも大事な役割を果たしています。
とは言っても上述の通り悲壮感はほぼ無く、どちらかと言えば「哀愁」という表現の方がしっくりきます。

また、本作では、「海に沈んだ街」が随所で(特にOVA版では多く)描かれているのですが、これも不思議なまでに悲壮感はなく、「美しい風景」として読者(視聴者)の頭に焼き付けられます。

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普通「海に沈んだ街」という絵は、ウルトラマンレオの1,2話など、どうイメージしようとしても絶望的な場面に繋がってしまうものです。

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それを描き方一つでこれほどまでに「あたたかいもの」として見せられているのが、本作の最も優れた点の一つだと思います。

 

人類は衰退しました田中ロミオ著 - ガガガ文庫

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2007年から2014年まで出版されたライトノベルです。
2012年にTVアニメ化されました。
ヨコハマ買い出し紀行」と少し似ていて、人類がゆったりとした終末を迎えつつある世界が舞台です。
こちらは世界観としては「ファンタジー世界の田舎町」といったところでしょうか(実際には「アメリカ」などの単語も出てくるので地球の未来が舞台ではあるようですが)。

本作の最も重要な要素が「妖精さん」です。

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今で言う人類は衰退し「旧人類」と呼ばれ、「現人類」として妖精さんが地球に繁栄しています。
非常に高度な文明を持ち、物理法則など完全に無視した道具を平然と作り出します。
主人公の「私」が妖精さん達の引き起こす事件に巻き込まれながら話が進んでいく、というのが本作の基本的な展開です。

本作は上記2作品と比べるとかなりSF色が強い作品になっています。
基本的には文庫1冊に中編が2話ずつ収められている形式なのですが、その中でもファンタジー要素の強い話、怪奇小説めいた話、タイムトラベルの話、漫画雑誌のアンケート制(あるいはそれに踊らされる読者)を痛烈に皮肉った話、実際に起こった出来事を独自の解釈で発展させた話、主人公が宇宙まで飛び出していく話など、かなりバラエティに富んでいます。
しかし、各エピソードの根底には"SF"が常に存在し、作品全体に不思議な統一感があります。

「普段はSF小説しか読まないけど、たまにはラノベでも読んでやるか」という方には大変とっつきやすい作品だと思います。

 

ドラえもん のび太と鉄人兵団藤子・F・不二雄著 - コロコロコミック

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大長編ドラえもんの第7作。
1985年から1986年にかけて連載され、連載終了直後の1986年に映画が公開されました。

あらかじめ言っておきますと、本作は終末SFではありません。
「厳密には終末SFではない」などではなく、断じて終末SFではありません。

が、実は数多くのSF作品を世に出している藤子・F・不二雄先生。
本作は大長編ドラえもんの中でも群を抜いて"SF"しています。

ロボット軍(鉄人兵団)の地球侵略、ディストピアタイムリープ、そしてもちろんドラえもんひみつ道具など、様々なSF要素がありますが、終末SF的だと感じたのは、ひみつ道具「入りこみ鏡」「逆世界入り込みオイル」で入り込むことができる「鏡面世界」という設定です。
鏡面世界とは、文字通り鏡の中の世界で、現実世界が左右反転されたそのままの形ですが人間や動物は一切存在しません。
地球を侵略しに来た鉄人兵団にのび太たちが抗戦する際、地球が破壊されないようにするため、この鏡面世界に誘い込みました。
そして鏡面世界を舞台に、強大な鉄人兵団との壮絶な戦いを繰り広げるのですが、この「自分たち以外誰もいない世界での絶望的な戦い」というのがまさに終末SFの世界観そのものなのです。

本作で最も印象に残っているのが、逃げ出したリルル(メインゲストキャラ、ロボットの女の子)とそれを追ってきたのび太が、鉄人兵団に破壊された街の地下鉄入口で対峙するシーンです。

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原作ではわずか2ページの短いシーンですが、この「地下鉄入口」という場所が、他にはない独特の雰囲気を醸し出しています。
破壊された街の絶望感、ロボットと人間の間で揺れるリルルの心、人類を守るためにはリルルを撃たなければいけないというのび太の葛藤など、多くの意味が込められた名シーンです。

なお、リメイク版である「ドラえもん 新・のび太と鉄人兵団 ~はばたけ 天使たち~」で主題歌を勤めたBUMP OF CHICKEN藤原基央氏も、当時のインタビューで、地下鉄入口のシーンを「いちばん思い入れのあるシーン」と語っています。
僕自身BUMP OF CHICKENのファンなので、藤原氏が僕と同じシーンに思い入れがあると知って少し嬉しかったです。

藤原氏もオススメの本作、原作・旧劇場版・リメイク版とどれも素晴らしい出来なので、是非とも全て読んで(観て)いただきたい作品です。

 

終わりに

これらの「異色終末SF」は、一般的な終末SFが好きな人にこそ読んでいただきたいと思っています。
もちろん、予備知識がなくてもどれも大変面白い作品です。
しかし、終末SFに登場する設定の一般的な使われ方に対して、これらの作品における使われ方の特殊さや異様さがわかる人にとっては、その「違い」も大きな楽しみの一つになるでしょう。
そうでない人も、これらの作品を通して、普段の生活であまり考えることのない「終末」の世界に触れてみていただければと思います。