Do you see the GIRL

元・アニメ制作進行の自分が、アニメを見ての感想だったり、映画を見ての考察だったり、エロゲをやって勃ったことだったりを書いていくブログです。

【四畳半神話大系(アニメ版)】史上最狭の青春SF

第6回になる今回は、ミクロ的かつ超弩級のSF青春アニメ「四畳半神話大系」について。

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原作は2005年に刊行された森見登美彦の小説で、2010年春にTVアニメが放送されました。
森見氏の「太陽の塔」や「夜は短し歩けよ乙女」と同じく、京都大学のくされ大学生を主人公にした物語です。

 

鬱屈とした「私」

主人公である「私」は、基本的に他者を見下し、自分以外は全員馬鹿だと思っているような人間です。
しかし実際には他人とのコミュニケーションが極端に苦手で、サークルに入ってもそこで活躍できるわけではないという半端者。
それでもやっぱり他人を見下すのはやめない…。

「世間の馬鹿共にはこの私の聡明さが理解できんのだ!」という感情は多くの人が持っていると思います。
「私」は、そういった鬱屈とした人たちの代弁者とも言えるでしょう。

 

喝ヒロイン・明石さん

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「夜は短し~」の『黒髪の乙女』など、森見作品のヒロインは本当に魅力的です。

本作のヒロイン明石さんは、『黒髪の乙女』とはまた違ったタイプの黒髪ヒロインです。
『黒髪の乙女』がいわゆる不思議系だったのに対し、明石さんは、聡明でどこまでも毅然としています。
現代日本の媚び媚びのアニメヒロイン共に喝を入れてくれる存在です。
「私」同様「そのまま君の道をひた走れ」と心の中で熱いエールを送りたくなります。

「また阿呆なもの作りましたね」「先輩は阿呆ですね」と、ことあるごとに「私」を阿呆呼ばわりしてくれるのもまた心地よい。

 

キャスティングの妙

本作のキャスティングは大変素晴らしかったです。

まずは何と言っても「私」役の浅沼晋太郎さん。
森見作品の淡々としていながらも独特の言い回し(モノローグ)をこれほどまでに完璧に演じられる人間が他にいるでしょうか。
特に「私」一人で最初から最後までぶっ通しで喋り続けた第10話は圧巻でした。

別作品になりますが、「生徒会役員共」のタカトシ役でのツッコミ無双も必聴です。

明石さん役の坂本真綾さんも素晴らしかったです。
凛としつつも鈴を転がすような声で明石さんの魅力を十二分に発揮できていたと思います。

そして小津役の吉野裕行さんもドハマリでした。
吉野さんは「うたわれるもの」のヌワンギやら「SHIROBAKO」のタローやら、いやらしい感じのキャラをやらせたら天下一品ですね。

 

四畳半迷宮の終わり、そして…

各話のエピソードもそれぞれに面白いのですが、全てが集約していくクライマックス抜きにしては本作は語れないでしょう。
特に10話から11話前半にかけてひたすら四畳半の迷宮を巡り続けていた「私」が外界へ出て、生まれたままの姿で走り幅跳びをする姿は奇妙な感動すら覚えます。

ちょっとした話ですが、騒動が一段落したところで樋口師匠が「これで前を隠せ」と素っ裸の「私」にスカーフを渡したシーンは「走れメロス」のパロディではないかと思っています。
森見氏は「新釈 走れメロス」も執筆されてますしね。

モノローグを聴いているだけで楽しい本作ですが、エピローグ直前の「成就した恋ほど語るに値しないものはない」というのは最高にスタイリッシュな締めでしたね。
森見氏のこういった心地よい文章には脱帽するばかりです。
最後の「私」の「俺なりの愛だ」も拍手したくなるようなオチでした。