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Do you see the GIRL

元・アニメ制作進行の自分が、アニメを見ての感想だったり、映画を見ての考察だったり、エロゲをやって勃ったことだったりを書いていくブログです。

【小説「夜行」(森見登美彦)】読後数分間に生まれた醍醐味

小説

(※読んだ人向け)

 

世に出てから間もない作品を当ブログで扱うことは少ない。

最近考察を書き続けていた「ローリング☆ガールズ」は約1年半前の放送と比較的新しい作品だが、「ヨコハマ買い出し紀行」やら「かみちゅ!」やら「どらえもん のび太と鉄人兵団」やら、10年以上前のアニメ作品を今更のように取り上げることもしばしばである。

公開から(当ブログ内で)最速で取り上げたのは「シン・ゴジラ」だった

期待半分、不安半分で映画館に行ったが、見終えた後には何が不安だったのかすら忘れてしまうような傑作であった。

 

そして今回は2016年10月25日に刊行されたばかりの森見登美彦氏の新作「夜行」(以下「本作」)について思ったところ等を書いていきたい。

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Google検索で「夜行 考察」などでこのページに辿り着いてしまった方には大変申し訳ないが、以下に記すのは考察でも解説でもなく「思ったこと」「感想」なので、その点はあらかじめご了承いただきたい。

というのも、今回このエントリを書こうと思い立ったのは、本作を読み終えたとき、奇妙でモヤモヤとした感じが頭の中に渦巻いており、それを文字に起こすことで自分の頭の中を整理しようと考えたためである。

 

私はもともと森見氏の作品が好きで、「太陽の塔」「きつねのはなし」「夜は短し恋せよ乙女」「有頂天家族」「有頂天家族 二代目の帰朝」「聖なる怠け者の冒険」は拝読しており、「四畳半神話大系」はアニメ版のみ拝見している

森見氏の作品には「夜は短し~」や「聖なる~」など、ドンチャン騒ぎのエンタメ小説もあれば、「きつねのはなし」のような、それこそ狐につままれたような感覚に陥る怪奇小説もある。

文体や作品のテイストは作品ごとに大きく違うが、その根底にあるてろてろとした森見氏独特の味は共通している。

それは本作も例外でなく、タイトルから推測できる通りジャンルとしては怪奇小説に寄っているが、やはり読んでいるときの「森見作品を読んでる感」は健在であった。

 

本作は、数名の語り手が連作絵画『夜行』にまつわるそれぞれのエピソードを語る形式になっているが、全ての話は決定的な解決を迎えずに「不思議なまま」で終わってしまう。

 

これは「きつねのはなし」のときも同様だったのだが、「きつねのはなし」では各短編の間での総括などもなく(ちょっとずつリンクしている部分はあった)、投げっぱなしとまではいかずとも、読者側がいろいろと考えてそれぞれの解釈に辿り着く必要があった。

また、その辿り着いた答えも果たして森見氏の意図したものに沿っているかどうか、全く自信は持てなかった。

 

その点、本作は違う。

 

各話の謎に対する答えが明らかにされているわけでもないし、暗に臭わせてすらいない。

それ故に、自分の中でも明確な答えは出ていないのだが、読後に受けるべき印象というのが非常に明確に感じられる作品なのである。

「受けるべき印象」というのもおかしな日本語で恐縮なのだが、本作の読後感を最も的確に表すことができている表現であると思う。

 

第一夜から第四夜、そして最終夜と、全5話編成の本作であるが、最終夜「鞍馬」でそれまでの不思議な出来事の原因が連作絵画『夜行』にあることが明かされていく。

それまでの話は基本的に不気味さを軸に進んできたが、「鞍馬」の話の軸は一転して穏やかさや暖かさにシフトしている。

先ほどまで怪奇小説を読んでいたはずなのに、いざその元凶に焦点を当ててみると"いい話"が始まるという非常に不思議な構成なのである。

 

そしてその"いい話"の感じのまま、物語は終わりを迎える。

読み終えたその一瞬だけはとても晴れやかな気分になるが、少しずつ思い出してみると、後から後からモヤモヤしたものがにじみ出してくる。

各話の出来事の問題は何も解決していないのだ。

 「鞍馬」を読んでいる最中も、それまでの不気味な話の内容を忘れているわけでは決してない。

むしろそれまでの不気味さがあるからこそ「鞍馬」の"いい話"っぷりがより盛り上がっているのは間違いないだろう。

読後、自分の中での本作の印象が"いい話"から"不気味"に引き戻されていくときは何かに騙されているような感覚すらある。

 

しかし、私はこの感覚こそが本作の一番の醍醐味だと思っている。

 

読書をするとき、その作品を読む前後や、1回目の読後と2回目の読後で作品の印象が変わることは多々あるが、読後の数分間でこれほど印象が変化する作品が他にあるだろうか。

 

本作は、作中ではなく読後の自分の心の中に最も楽しい瞬間が待っているという、なんとも不思議な作品であった。